お香とお線香

お香とお線香について

なぜお香を焚くの?

お香を焚くという行為は仏式の作法のひとつです。これは仏様やご先祖様にその香りを楽しんでいただくためのもので、ロウソクやお花、ご飯や水をお供えすることと同様の「お供え」となります(この5つのお供えは、仏様へのお供えの基本であるとされ、五供といえます)。
また、同時に、日々けがれた生活を送っている私たちが自らの心身を清めるためのものでもあります。一休禅師によって紹介された『香の十徳』では、香は、

①感格鬼神(感覚を研ぎ澄ます)
②清浄心身(心身を清浄にする)
③能払汚穢(穢れを取り除く)
④能覚睡眠(眠気を覚ます)
⑤静中成友(孤独な中でも安らぎを得る)
⑥塵裡偸閑(多忙時にも心を和ます)
⑦多而不厭(たくさんあっても邪魔にならない)
⑧寡而為足(少量でも十分に香りを放つ)
⑨久蔵不朽(年月を経ても朽ちない)
⑩常用無障(常用してみ害がない)
などの肉体的・精神的な効用が説明されています。

お香の伝来、そしてお線香の誕生

お香は仏教の伝来とともに日本に持ち込まれたとされます。
754年に鑑賞和尚の来日とともに煉香の手法が伝わると、お香は仏教儀式のみに使われるという枠から離れ、香り自体を楽しむ、という文化に発展していきました。
現在お香には、法事など焼香の際に使われる「抹香」「焼香」などと、日常生活で一般的に使われる「線香」がありますが、抹香や焼香は火種の扱いが面倒であること、高価なことなどを理由に、日常生活で使用する人は少ないようです。
線香をつくる技術は、江戸時代初期に中国から伝えられましたが、どのようにして伝えられたかに関しては諸説あります。五島一官という人が中国・福建省からその製法を持ち帰り、長崎で線香をつくりはじめたとする説、堺の薬種商、小西弥十郎如清が朝鮮半島に渡り、線香の製造方法を習得して帰国した話などがあります。それまでの抹香より扱いが手軽なことから、瞬く間に全国に広がりました。
燃え尽きるまでの時間が正確な線香は仏事以外で、遊里の遊び時間を計るためにも使われました。寺院などでは、長尺線香とよばれる線香を使用し、お経を唱えたり坐禅を組んだりする時間を線香1本が燃え尽きるまでとしています。

お線香の種類

線香は「杉線香」と「匂い線香」にわけられます。杉線香は、杉の葉を原材料に作られ、お墓参り用の線香として主に使われます。匂い線香は、タブの木の樹皮を粉末にしたものをベースに、様々な香木、香料を調合して作られます。
現在では、伝統的な香りはもちろん、フローラル系、ハーブ系など、現代人の好みに合わせて、様々な香りの線香が販売されています。

【線香に使われる代表的な原料】
・白檀(びゃくだん)
インド・インドネシアで多く産出され、インド南部産の良品質を「老山白檀」と呼びます。香料のほか、高級彫刻材として、仏像、念珠にも使用されています。
・沈香(じんこう)
東南アジア全域で産出するジンチョウゲ科・アキラリア属の樹木に、長い年月をかけて蓄積された樹脂です。水に沈むので「沈香」とよばれています。
・伽羅(きゃら)
主にベトナム産で、沈香の一種です。香道では、沈香を6つに分類しますが、その中で伽羅は最も品位の高い香りとされています。

お線香をお供えするときのマナー

お線香をお供えするときは、まずローソクに火を灯し、そこから線香に火をつけます。
お供えする線香の本数は宗派によって違いますが、日々のお参りでは必ずしも決まった本数の線香をお供えしなければならないわけではありません。大切なのは心をこめてお香を供えることで、本数はあまり問題ではないということです。
気をつけたいのは、線香に火をつける時、炎を口で吹き消してはいけないということです。人間の息は不浄なものとされていますので、手または、うちわなどであおいで消すようにしましょう。
仏前では、複数本立てる場合でも、まとめて立てずに、1本ずつたてるようにする。
墓前では、線香は束のまま火をつけてから、人数分に分けてお供えするのが一般的です。
日本での、お香に関する最も古い記載は『日本書紀』にあります。それによると、推古三年(595)に淡路島に香木が漂着しました。人々はただの流木と思い、ほかの木と一緒に燃やしたところ、あまりによい香りがするので騒然となったそうです。
それを朝廷に献上したところ、聖徳太子によって「沈水」であることが判明した、と伝えられています。この「沈水」は現在でいう沈香で、今も法隆寺に保存されています。